小夜子はごく平凡な人妻だった。容姿はそこそこ整っているが、街を歩いていて人目を引くほどではない。
しかし自分の人生には満足していた。公務員である夫は、地方都市の住民としては高給取りと言ってよかったし、なによりも小夜子に優しかった。
小夜子と同じ商業高校を出た主婦仲間たちは、夫の年収の低さを嘆き、自らもパートであくせくと働かねばならなかった。
平日の昼間に紅茶を飲みながらドラマの再放送を見ていられる自分は恵まれている。そのことを小夜子は自覚しており、夫に感謝もしていた。
夫は、働かずに済む身分に妻を置いていることに、密かな自尊心を満足させているようだった。夫もまた商業高校の出身で、民間企業に就職した同級生たちの苦労を聞き及んでいて、自分と妻がいかに幸福かを理解していた。
いつもの平日。12時半。小夜子はアパートの自室でランチを取りながら、ぼんやりと考え事をしていた。
もうすぐ私も25歳になる。そろそろ子供を作ってもいい頃合かしら。子供ができて何年か経って落ち着いたら、一軒家の購入を検討するのもいいかもしれない。
将来には希望しか見えなかった。
食事を済ませ、洗い物をしていた小夜子は、玄関から物音が聞こえてきたような気がして手を止めたが、すぐに気のせいだと思い直し、皿洗いを続けた。
今アパートの自室には自分以外には誰もいるはずはないのだから、さして気にする必要はない。どうせ何かが自重で少し動いただけだろう。確認するのは、お皿をすべて片付けてからでも遅くない。そう思った。
しかし、水を止め、布巾で皿を拭いていると、突然 背後から何者かに抱きすくめられた。
悲鳴は上げなかった。とにかく何が起こっているのかまるで理解できず、恐怖を抱く余地すらなかった。あまりにいきなりすぎて、これから恐ろしいことが起ころうとしているという事実に思い至ることすらできなかったのだ。
そのため、頭の中が真っ白になることもなく、小夜子は状況の把握に努めることができた。
けれど答えは出ない。
なぜ、真っ昼間のアパートでいきなり羽交い締めにされるのか。全く意味が分からない。暴漢だとか強盗だとか、そのような発想は出てこなかった。
異様な現状に小夜子はひたすら疑問を抱くばかりだった。
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