ラブホテルに入ったのは、女子大生の時 以来だ。当時は彼氏だった現在の夫と、手を繋ぎながら入った記憶は、今でも薄れることがない。初体験は19歳だった。二回目以降のセックスは、彼の家ですることがほとんどになったため、ラブホテルの利用は、その一回だけである。
店長は車でラブホテルに入り、立体駐車場を上がっていき、五階で止まった。車を降りると、すぐ近くに室内への扉があった。そこに入ったら、今度は目の前に部屋のドアがある。誰にも見られることなく部屋まで行けるので、私たちのような不倫には最適というわけだ。
夫と入ったことのあるラブホテルとは、色々と違っていた。あの時は、他の利用客と擦れ違うことが普通にあったし。まあ、あれは安っぽいところだったから、当然かもしれない。
ここが特別高級というわけではないけれど、設備にそれなりのお金を掛けているようだし、清潔感を保とうという努力は見られる。
部屋に入ると、店長は直後にキスをしてきた。肩を強く掴まれたので、私は拒絶することができず、店長の舌を受け入れざるを得なかった。
店長は、キスをしながら私の胸を揉んできた。服の上からとはいえ、エッチな触り方だった。
私は、胸を揉まれて感じことがほとんどないのだけれど、店長に揉まれていると、なんだか身体が熱くなってきた。撫でるようでいながら、力が入っていないわけでもない、そんな絶妙の触り方だ。
こんな手付きで股間を責められたらどうなってしまうのか。想像するとパンティに湿り気を感じた。
どうやら店長は、相当に女性経験があるらしい。女遊びを数多くこなしていると言うか。下品な言い方をすると、ヤリチンということ……。
私との性行為しか経験のない真面目な夫とは、正反対の男性だ。もちろん、それは普段の言動からおおよそ察しはついていたが、こうして現実に直面すると、改めて期待を抱いてしまう。一体どんなセックスが待っているのだろう、と。
私は思わず内腿を摺り合せた。
しばらくして私たちは唇を離した。
店長の手は、私の胸から少しずつ下がっていった。服の上を滑り、下腹部を通過して、股間へ。
そこで私は店長の手を押さえた。
「あ、あの……」
股間を触られるだけなら構わなかった。むしろ望んでいることだ。けれど、その先もこのまま続けるとなると、ちょっと待って欲しい。まだシャワーを浴びていない。一日ずっと仕事をしていて、たっぷりと汗を吸った下着を、他人に嗅がれたくはない。
「どうしたの?」
店長は、優しい声で聞いてきた。
分かっていてとぼけているような感じではなさそうだ。それはいいのだけれど、こうなると、どうやっても察してくれなさそうに思える。
仕方がないので私は言葉を続けた。
「シャワーを……」
なんだか、自分から言い出すのがひどく恥ずかしく思えた。すでに子供も産んだ人妻だというのに、女子大生時代の気持ちが蘇ってくるような……。
慣れきった夫とは決して味わえないこの感覚。不倫をやめられない世の母親の気持ちが、少し分かった。
私はこれ一回きりの思い出のようなもので、別に浮気を継続する気なんて更々ないのだけど。たぶん。
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