「あのさあ、ちょっとは頭を使ってよ。刺激するのはチンポだけでいいの? キンタマを優しく揉みほぐしてあげるのも仕事なんじゃないの?」
「は、はあ」
睾丸をマッサージする? そういうやり方を全く知らなかったわけではないけれど、実際に行うという発想は出てこなかった。もちろん夫にしたことなんてない。そんな娼婦みたいな真似……。
「ほら、やり直し。早くして」
「はい」
左手でディルドウをしごきつつ、右手をその下に伸ばす。ペニスバンドに睾丸を模したものなんて付いていないので、右手は適当に空中で遊ばせることになる。
「なにこれ? なんのつもり?」
またしても楓が文句を言ってきた。
私が黙っていると、楓は眉を寄せて不快感を露わにした。
「なんのつもりかって聞いてるでしょ? なに黙ってんの?」
「すみません」
「何で怒られてるか分かってる?」
「いえ……」
楓は大袈裟に溜息を吐いた。
「28歳にもなって、なーんも分かんないの? あのね、私はやり直しって言ったの。分かる? やり直し。それくらいは理解できるよね? なのに、あんたは途中から始めた。最初からじゃなくて、続きから。なんで? おかしいでしょ? やり直しなんだから、最初からに決まってるでしょうが」
「…………」
だったらそう言えばいいだろうに。いちいち嫌みを交えないと喋ることができないのだろうか。
「なに不満そうな顔してんのよ、あんた。これは仕事なんだから、嫌なことを言われるのは当たり前なんじゃないの? 違う?」
それは違う、と私は思った。厳しいことを言うのならまだ分かる。しかし、楓のそれは嫌みでしかない。厳しいことを言うのと嫌みを言うのは別物だ。
仕事だから、というのは理由になっているようで理由になっていないし。まあ、仕事のため、と言いたいのだろうが、それはつまり、嫌みによって仕事の効率が上がる、という主張に他ならない。この場合で言えば、嫌みで私の学習効率が上がる、ということになる。
しかし実際はどうか。私は頭をカッカさせ、逆に集中力を削いでしまっている。完全にマイナスだ。
もちろん、厳しい言葉を浴びせるだけなら、プラス効果もなくはない。萎縮と不満という副作用を生むことになるが、怠惰を戒める効果を期待することはできるだろう。
けれど嫌みにそんな効果はない。強いてプラス面を挙げるなら、楓のストレス解消に貢献することくらいか。
全く馬鹿げた話だ。叱咤激励と嫌みの区別も付かないなんて、無能の典型としか思えない。私が店長なら、楓を指導係にすることは絶対にないだろう。
しかしその気持ちを言葉にすることはできない。私が口にしたのは別の言葉だった。私は言った。
「すみませんでした……」
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