「立て!」
私が命令すると5人はふらふらと立ち上がった。まだ背中をさすったりして痛そうにしている。
「気を付け!」
怒鳴るように言って彼女たちを直立不動にさせる。
鬼塚さんも素直に従っていた。
もしかして私が同級生だと気付いていないのだろうか。そんなはずはないと思うが……。
「脱衣始め!」
私の命令に、囚人たちは「はい」と返事をして脱ぎだした。私が「声が小さい!」と言うと、「はい!」と少し大きくなった声が返ってくる。私は「まだ小さい!」と言った。警棒を握っている手を上げて、威嚇する。すると、5人は慌てて「はいっ!」と大声を上げた。
脱ぎながら泣きそうになっているのが一人。残りの四人も、私の懲罰を恐れているのがありありと伝わってくる。鬼塚さんも他の囚人と同様、服のボタンを外している指がわずかに震えていた。
なんだ、と私は思った。こんなものか。高校のクラスでは敵無しだった鬼塚さんも、ここではやっぱり無力な囚人に過ぎないのか。
クラスの男子も女子も完全に掌握し、気に入らない教師の授業ではボイコットすら扇動したというのに、今の鬼塚さんは、私に警棒で叩かれても文句を言えず、震えながら下着姿になるしかないのか。
冷静に考えてみれば当然のことなんだけれど、高校時代に受けた数々の仕打ちのせいで、どうにも悲観的に考えてしまっていたようだ。
これはむしろチャンスなのかもしれない。高校時代のイジメをここでそのままやり返したとしても、誰も私を咎める者はいないだろう。公権力の元で堂々とイジメを実行できるのがこの刑務所なのだ。
私は、下着姿で立っている5人に、自分の名前を言わせた。返事の時のように、声が小さいことを注意して、何度もやり直しをさせる。
一人5回くらいはやり直しをさせただろう。多少のばらつきはあるが、その回数は誰もが似たようなものだ。とりあえず全員の順番が終わると、私は彼女たちの背後に移動した。
「まだまだ声が小さい! もう一度、始めからやり直し! その前に、お前たちの気を引き締める! 全員、手を頭の後ろで組め!」
囚人たちがポーズを取ったのを確認してから、私は鬼塚さんの尻を警棒で叩いた。
臀部を守っているのは下着だけなので、肌を打っているのと変わらない音が鳴った。
鬼塚さんは「んっ」と可愛らしい声を漏らした。
「お礼はどうした!? 刑務官に懲罰を受けたお礼は!? それと、刑務官の手を余計に煩わせたことへの謝罪も!」
私の叱責を受けて鬼塚さんは唇を噛んだ。悔しくてたまらないという感じだ。心なしか、目が潤んでいるような気がする。それでも多分、私がもう一回彼女の尻を打てば、きちんとお礼と謝罪をするだろう。
しかし私は鬼塚さんをとりあえず放っておき、隣の女に警棒を振るった。
「すみません! ありがとうございます!」
最初の警棒が効いているのか、隣の女は大きな声でお礼と謝罪を口にした。次の女も、その次の女も、まあまあの大声を出した。
結局、鬼塚さん以外の4人は合格点を上げてもいいような態度だった。
「鬼塚! 何にもできていなかったのは、お前だけだ!」
私は怒鳴り付け、また鬼塚さんの尻を叩いた。
もちろん、言い掛かりもいいところであることは分かっている。お礼と謝罪が必要なことは、事前に言われなければ分かる訳がない。
だが、ここでは刑務官の言うことは絶対なのだ。極めて理不尽なことであっても、私の言うことは常に正しい。間違っていたとしても正しいのである。それをはっきりと示すために行っていることだった。
とはいえ、私怨が混じっていないと言ってしまうと、それは嘘になるが。
「ありがとうございます! すみませんでした!」
鬼塚さんは、お礼と謝罪を叫ぶように言った。しかしそれだけでは終わらせない。
私は、鬼塚さんがちゃんとやれなかったのは全員の責任だということにして、他の4人にも一発ずつ警棒を叩き付けていった。
いわゆる連帯責任というやつだ。まったく馬鹿げた論理だが、ここではそれが罷り通ってしまうのだから、使わない手はない。
「これから検査を始める、と言いたいところだけど……」
私は鬼塚さんの背後に戻ってから言った。
「鬼塚! お前、尻を打たれた時に体勢を崩しただろ! 懲罰を何だと思っている!? 感謝の気持ちがないから体勢が崩れるんだ! 全員、もう一回!」
5つの尻に再び警棒を叩き込む。
注意されているのは鬼塚さんだけなのに、なんで自分たちまで尻打ちを受けなければならないのか。鬼塚さん以外の4人の気持ちはそんなところだろう。
実際には、鬼塚さんにも落ち度はない。体勢なんて別に崩してなんかいなかった。
けれど、前を向いている他の囚人には、真横で何が起きているかなんて分からない。すぐ隣にいる囚人なら、あるいは察したかもしれないが、やはり横目では確信を持つまでには至らなかっただろう。
鬼塚さんのせいで余計に尻を叩かれた。この認識は今後鬼塚さんを苦しめることになるかもしれない。そんな期待も込めての連帯責任による懲罰だった。
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