「一つ」
お尻を叩かれて、あたしは数をかぞえる。
「二つ」
幼子がお仕置きをされているかのようだった。
けれどお尻を叩かれているあたしは、いい年をした大人で、胸は膨らんでいるし陰毛も生えているし、手足はすらりと長い。普段は白衣を着て医者として働いているあたしが、全裸になって四つん這いになりお尻叩きを受けている……。
どう見ても異常としか言い様のない光景だろう。
「三つ」
遠藤教授の掌があたしのお尻を弾き、乾いた音を鳴らす。
5秒に1回くらいの間隔でそれは続く。
「……四つ」
言葉が少し遅れた。軽い平手打ちとはいえ、何度も叩かれているうちに少しずつ痛みが増してきて、思わず声を詰まらせてしまったのだ。
きっとあたしのお尻は今 赤くなっているだろう。
我慢できないほど痛いというわけではないが……。
「五つ」
「声が小さいぞ。次も同じなら、また1から数え直しだ」
「は、はい」
冗談じゃない。痛みはともかく、こんな屈辱を長引かせるだなんて御免だ。
「六つっ」
お尻に鋭い痛みを感じると同時にあたしは声を上げた。
遠藤教授は満足げに笑った。
「そう、それでいい。君の凛とした声は耳に心地良く響く。今の声も、新進気鋭の若手女医らしく、声に張りがあったな。医局で後輩に注意をしている時のようだったではないか」
「…………」
黙っていると、お尻に衝撃が与えられた。今までよりも少しだけ威力が大きかった。
「な、七つっ」
「おいおい。今のは数には入らんよ」
「え?」あたしは思わず遠藤教授を振り返った。「ど、どうしてですか?」
「今のは、私の言葉に反応せず黙り込んでいた君に対する罰だ。数に入ろうはずもない」
「…………」
頭に血が上りそうになったので、教授から顔が見えないようにあたしは前に向き直った。
「ほら、また無視をする」
再びお尻への打擲。やはりわずかに強かった。
「も、申し訳ありません、遠藤教授」
「当然、今のもカウントはなしだ。分かっているだろうな?」
「はい……」
「よろしい。では続きだ」
「……お願いします」
わざわざ「お願いします」なんて言う必要はなかったかもしれないが、またどんな難癖を付けられて余計に叩かれるか分からない。ゆえにあたしは、自分からお尻叩きをお願いせざるを得ないのだった。
「七つっ」
尻打ちはちょっとだけ弱くなった。といっても、六つ目以前の強さに戻っただけなのだけれど。
「いいぞ。次もその調子でかぞえなさい
「はい」
熱い痛みを訴えてくるお尻のことはなるべく考えないようにする。
「八つっ」
お尻を叩かれて、声を張り上げる。滑稽極まる状況だ。自分が情けなくなってくる。それこそが遠藤教授の狙いなのだろう。分かっていても屈辱で涙目になってしまう。
「九つっ」
かぞえながら、あたしはほんのわずかにお尻をもじつかせた。お尻の痛みも我慢しがたいところまできていた。
しかしあと一つだ。そう思い、最後の一発を待つ。
室内に大きな音が響き、激しい痛みがお尻を襲った。ラストだからなのか、今までになく強烈な平手打ちをお尻に加えられたのだった。
「と、十っ」
叩かれた瞬間にあたしは息が詰まりそうになったけれど、今まで数をかぞえてきたおかげで、幸いにも反射的に声を上げることができた。
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