2日目からは、刑務所内の運動場で行進訓練が行われる。
「もっと足を高く! もっと!」
私は大声で彼女らを叱責した。
5人の新人女囚たちは、運動場の片隅で、横一列になって壁と向かい合い、その場から移動することのない行進をしていた。つまりは足踏みである。
これ自体は全く無意味なことだが、寸分違わぬ集団行動をさせることによって、周りに合わせるという行為そのものを学ぶのだ。それが別に行進訓練でなくても構わないから、刑務官によっては、ラジオ体操を叩き込んだり、あるいは挨拶訓練をさせたりもする。
「イチ! ニ! イチ! ニ!」
新人5人は、自ら掛け声を上げながら行進をしている。
彼女らの声と、土を踏み鳴らす音が、延々と続く。
鬼塚さんを含めた今回の新人は、4人が20代で、残りのひとりも32歳である。まだまだ若い。訓練に遠慮する必要はどこにもなかった。
「鬼塚! お前だけテンポが遅い!」
私は適当なことを言って、警棒を鬼塚さんのお尻に叩き付けた。下着と囚人服の上からなので、それほどの威力は伝わっていないはずだが、しかし鬼塚さんはビクンと肩を跳ね上げた。
昨日 散々に叩かれたせいで、まだお尻が腫れているのだろう。
鬼塚さんはそれでも「はい!」と言って行進を続けた。
彼女らが手を抜いている様子は特に見られなかったけれど、なかなか動きが揃わなかった。
まあ、慣れないことなので仕方ないのだが、それで許していては刑務官が舐められてしまう。
壁に向かって延々と足踏みを続ける新人5人に向かって、私は彼女らの背後から何度も怒鳴り声を浴びせた。
「キビキビ動けと何度 言ったら分かるんだ!? 手足の先まで意識して!」
たまに、不意打ちで警棒を振るう。お尻だけじゃなく、腕や太ももを打ち据えたりもする。
標的は動きの鈍い女囚だが、もちろん、それとは別に、鬼塚さんへの集中指導も忘れない。
「鬼塚! 足の上がりが甘い! もっと高く上げろ!」
彼女の太ももを下から警棒で突き上げてやる。
「……っ! は、はい!」
鬼塚さんは、引きつった声で返事をした。
けれど私は許さない。
「全然駄目! 全員、気を付け!」
5人は行進をやめ直立した。
足踏みの音がいきなり止まったので、耳に少しだけ違和感が残った。
5人は真っ直ぐに立っていたが、息が切れているようで、肩が大きく上下していた。彼女らの後ろ姿を見ているだけでも、その辛さが伝わってくる。
きっと、できれば休みたいと思っているだろうが、しかしそうはいかない。
「お前ひとりが揃ってないせいで、いつまで終わらないんだぞ、鬼塚! ちゃんとやれ!」
ただの言い掛かりである。鬼塚さんの行進は、別に他の4人と遜色はない。それどころか、どっちかと言うと、よくできている方でさえある。
「はい! すみません!」
分かっているのかどうなのか、鬼塚さんは大声で謝罪した。彼女を含めて女囚5人は壁の方を向いているので、どんな表情をしているのかは不明だ。
私は容赦なく言った。
「すみませんで済むか! 連帯責任! 全員、ズボンとパンツを膝まで下ろせ!」
新人5人は「はい!」と声を揃えて囚人服のズボンに手を掛けた。躊躇はない。初日の教育がよく効いているようだ。
次々にズボンが下ろされ、白いパンツが露わになる。
もちろん、下着も刑務所からの支給品である。通常なら、女性が履くパンツは小さくて、最小限の面積しかない。しかしここでのパンツは布地が大きく、おへそ近くまでカバーされている。遠目にはまるで女児用パンツのようだが、実際にはそれとは違い、何の飾り気もない。
5人がパンツを晒しても、そこには色気も何もなかった。
彼女らはパンツにも手を掛け、ズボンと同じく、一気に引き下ろした。
年頃の女性が5人も一列に並んで尻を出す光景は、全く異常というしかない。娑婆ではそうそう見られないに違いない。しかも、ひとりの尻は酷く腫れているし、他の4人も赤みを帯びているので、尚更だろう。
ズボンとパンツを膝に止めて突っ立っている彼女らの尻に、私は、一発ずつ警棒を打ち付けていった。
一発ごとに「ありがとうございます!」という声がする。
5回警棒を振ると、私は「ズボンとパンツを上げろ!」と言った。
女囚5人は、「はい!」と言って、ズボンとパンツを引き上げた。
罰を受け終えたはずの彼女らの声に、安堵や喜びは含まれていなかった。どうせすぐに再度のお尻叩きがあるに決まっている、と思っているのだろう。
その予想は完全に正しい。
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