美樹は、後ろに手を回し、ブラのホックを外そうとしていたようだったが、指先が震えているためか、なかなか上手くは行かなかった。
俺は地面を鞭で打った。美樹の足元近くだ。
「うっ」
それが威嚇に過ぎないのだと即座に理解したのか、美樹は、必要以上に飛び退いたりはしなかったが、さすがにじっとしてはいられなかったらしく、何歩か後ろに下がった。
「早くしろ!」
急かされた美樹は、気丈にも俺を睨み付けた。しかし、口を開くと途端にボロが出る。
「わ、分かってる……」
震える声で言うと、美樹は必死に手を動かした。
強気な女子大生の姿はもはやどこにもなかった。
それからさらに十秒ほど経ってから、やっとブラジャーのホックが外れた。
支えがなくなり不安定になったカップを、美樹は手で押さえた。
胸を隠すようなその仕草に俺は苛立ちを覚えたが、それを察したのか、美樹は俺をちらりと窺うと、すぐに手を離し、ブラジャーの肩紐も外した。
ブラを地面に放ると、露出した生乳を隠したそうにしながらも、今度はパンツの両端に指を引っ掛けた。美樹は、もう一度 俺の顔を見てから、パンツを下ろしていった。両足から抜き取ったパンツが地面に置かれ、女子大生の全裸が完成した。
地面に捨て置かれたブラとパンツを鞭先で指し示しながら俺は言った。
「ちゃんと畳めよ」
「どうして……?」
「畳む気がないのか?」
「…………」
美樹は訝しがりながら従った。地面に膝を着き、ブラとパンツを適当に折り曲げて、重ね置きをすると、再び立ち上がる。
俺はパイプ椅子に腰を下ろし、全裸で突っ立っている美樹に言った。
「なんだ、その畳み方は。滅茶苦茶じゃないか」
「だって、こんなの――」
「家政婦が全部やってくれていたってか? どうしようもないな、お嬢様って奴は。自分の下着も満足に畳めないとは。お前の薄汚れた下着なんて、もう誰も畳んでくれないんだぞ。どうするんだ、これから」
「…………」
美樹は、全裸の身体を心細そうに抱き締めていた。乳房と陰毛を手で覆い、時折、もじもじと身体をくねらせる。恥ずかしくて堪らないといった感じだ。
「気を付けぃ!」
俺は声を張り上げたが、美樹は、その意味するところが理解できなかったらしく、目を瞬かせていた。
「この期に及んで反抗するとは、大した度胸だな、おい」
「な、何を言っているの……?」
「ああ!? とぼけるな! 気を付けと言われたら、背筋を伸ばして立つ! 手は横! 小学校で習っただろ!」
「とぼけてなんか、ない。そんな兵隊みたいなこと、教わるわけないじゃない……」
「…………」
美樹はお嬢様学校に通っていたから、号令とは無縁だったのだろうか。
しかし、兵隊みたい、か。なるほど。言われてみると、確かに、体育の授業には、昔の軍隊の影響が明らかにある。号令を掛けられて一斉に姿勢を変えるだなんて、学校以外では、軍隊くらいでしか見られない光景だろう。当たり前に行われていることなので、誰もが自然に受け入れているが、軍事教練さながらの整列を、幼い子供たちに強制するのは、異常なことなのかもしれない。
現場の教師はよくこれを認めているものだ、と普通なら思うところだろうが、俺には彼ら教師たちの気持ちが分かる。完全に理解できる。
数十人に及ぶ生徒たちが、自分の号令に従い、指示された通りの姿勢を取る。素早く、一斉に。これは、とても気持ちの良いことなのだ。王様気分というやつだ。征服欲と優越感が同時に満たされる恍惚は、一度味わったら忘れられるものではない。教師がこれに反対しないのも当然のことだ。
まあ、ともかく。
「だったら俺が教えてやるよ。背筋を伸ばせ! 手は横だ! 指先まで真っ直ぐにしろ!」
「……分かったわ」
「返事は『はい』だ! それ以外には鞭で応えるぞ! 分かったか!?」
「は、はい」
「気を付けぃ!」
俺が声を張り上げると、美樹は、手を横に付けた。並盛りの乳房と、薄目の陰毛が、無防備に曝け出される。
美樹を直立させたまま俺は長々と説教を続けた。
全裸で突っ立っている彼女に対し、俺の方はと言うと、スーツを着込んで椅子に座っている。第三者が見れば、誰もが彼女に同情するような光景だ。それは美樹も自覚していることだろう。だからこそ彼女は、より屈辱を感じる。すべては計算だった。
- 関連記事
-